医療心理学・行動医学に関するネットワーク

【学会報告】第73回日本心理学会ワークショップ「サイコオンコロジー:がん患者、遺族、および医療者の感情反応と精神的健康」の指定討論を担当して

 8月末に開催された第73回日本心理学会のワークショップ「サイコオンコロジー:がん患者、遺族、および医療者の感情反応と精神的健康」に企画者並びに指定討論者として参加しました。このサイコオンコロジーのワークショップは、2004年に北里大学の岩満先生と一緒に企画してスタートしてから今回で6回目になります。

今回のワークショップでは、がん患者、遺族、医療者というサイコオンコロジーに関係する多様な立場の人たちの感情をキーワードとした話題提供がされました。まず、近畿大学の塩崎麻里子先生が、「遺族の後悔とQOLに関する研究」というタイトルで話題提供されました。この研究については、このWebでも詳細に報告されていますが、がん患者の遺族の「後悔」という感情について検討されています。ここで指定討論者としての質問は、遺族の後悔は、自分自信だけでなく患者自身という他者のの選択や行為に対するものも含むもので、その他の感情的要因、罪悪感、罪責感などの混入している可能性があるのではないかと指摘しました。

次に、筑波大学大学院の浅井真理子先生が、「がん医療に関わる医師のバーンアウト」というタイトルで話題提供されました。医師のバーンアウトと精神的健康の関連について、特に「終末期ケアへの関与」という側面について詳細に検討されました。ここでの質問は、「終末期ケアへの関与」以外の要因はどのようなものが関係しているか、単純に思うのは、週あたりの労働時間とか、報酬とかが関係しているのではないかという質問をしました。

最後に、東北学院大学の堀毛裕子先生より、「乳がん患者の語りと健康生成論」というタイトルで、Sense of Coherenceについて質的量的に詳細な解析された結果について報告されました。簡単に結論を言えば、高いSOCが高いQOLにつながるということでした。ここでの質問は、乳癌患者は治療や意志決定(治療選択)の局面によって感じること、思うことがかなり異なるので患者の治療からの経過期間がどのうように評価されているかを質問しました。

最後に全体に共通する質問として、今回の3つの話題提供された内容は、先行条件として対象者のおかれた状況があって、媒介変数として認知とそれに対する感情反応があって、結果変数として精神的健康とQOLがあるという共通したモデルで考えられることを提示しました。このモデルは、いわゆるストレス-コーピングモデルであり、現在の心理学に共通するモデルである。

同じようなモデルを使い、かつて筆者は、終末期がん患者の自己効力感(セルフ・エフィカシー)について研究を行っていました。その研究では、セルフ・エフィカシーが、身体的要因と心理的状態(抑うつ・不安)の媒介要因になることを示しました(Hirai et al., 2002)。その後、看護師を対象として「セルフ・エフィカシーを高める介入」を提唱し、「患者さんの行動をほめましょう」という内容を盛り込んだ看護師対象のワークショップや研修を開催しました。比較的好評だったのですが、あとで聞いた話しとして「話としてはわかりやすいけど、実際のところ何をしていいのかわからない」という感想がありました。結局分かったこととしては、このモデルでは、「自己効力感を高めましょう」とは言えるけれども、具体的に「何をしたら」それが高まるのかを指し示すことができませんでした。つまり、患者や医療者は「何をしたらいいのか教えてほしい」のです。

この研究とその後の経験を通して分かったことは、自己効力感は、媒介変数というよりも、結果として生じる感情、あるいは状態として理解するほうが自然であるということでです。そう考えると本当の媒介変数は別にあるのではないかと思いました。これがこのワークショップでの3人の話題提供者への共通した質問となりました。もう一つは、自己効力感を高める要素であるとされる「成功体験を持つ」こと「他人に評価される」ために、患者がどうすればいいのか具体的な手順を示すことが必要ということです。そこで2つ目の話題提供者への質問は、患者・家族・医療者は、今回提案された感情・心理状態を高める・改善するために具体的に何をしたらいいのか?ということになりました。

当然、これらの質問に対する答えはすぐに出されるものではありません。われわれ研究者、臨床家への共通した課題であるのではないかと思います。

(文責 平井)

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